本記事は旧・ねおあみゅーずめんと研究棟に掲載していたものですが、執筆日時が記録されておらず、初出日は不明です。恐らく1997〜2000年頃に記載したものと思われます。

ナンジャタウンの心理学


[ナンジャタウンは広いか、狭いか]
 ナンジャタウンに一度でも来園したことがある人にこういう質問をしてみよう。その回答はまちまちになるはずだ。もし、私にそういう質問をされたとした ら、「敷地面積的には狭いが心理面積的には広い」と答えたい。  ナンジャタウンは実際の所、狭い。世界最大のビルイン型テーマパークとうたってはいるが、所詮ビルの一角フロアを使用しているだけに過ぎない。試しに、 ナンジャタウンの入っているワールドインポートマートビルの1階フロアをぐるりと一周してみよう。ものの5分とかからずに一周できてしまうはずだ。
 お盆やゴールデンウィーク期間では、常に入場制限が敷かれてしまうことも狭い理由としてあげられる。こんなことを言うと「東京ディズニーランドはもっと 頻繁に入場制限をしているではないか」と反論する方もいるかもしれない。しかし、東京ディズニーランドに来園する人数は尋常ではない。しかも、東京ディズ ニーランドの入場制限はあくまで「混雑によってディズニー世界のイメージを壊しかねない」状態になった時点で制限が行われている。これに対して、ナンジャ タウンでの入場制限は「消防法の規制に違反しそうな」状態になったときに制限される。東京ディズニーランドの入場制限があったときに来園した客は、確かに アトラクションでは長時間の待ち時間を強いられるかもしれないが、歩けないほどの大混雑に巡り会うことはまずない。あるとすればパレード実施時間中のパ レードコース近辺くらいのものだろう。
 ではナンジャタウンで入場制限があった時に入園した客はどうなるだろう。アトラクションの待ち時間が長くなるだけではない。まず、アトラクションにたど り着くのに苦労を強いられる。特に最も人気のある街区「福袋七丁目商店街」の混雑は尋常ではない。ナンジャコアから福袋駅を抜けてトイレまで行こうとした ら、空いているときには1分で到達できるのに、混雑時には5分以上かかってしまうことすらある。しかも、入場制限が行われているときにナンジャタウン内に いる客の数は実の所それほど多くない。きっと1万人も入れないのではないか。とにかくナンジャタウンは狭い。これは紛れもない事実だ。
 けれど、一旦入園してみるとその狭さは微塵も感じられない。本来の敷地面積よりも広く感じるはずだ。もちろん、空間がねじ曲がってでもいない限り、敷地面積よりも広い空間は確保できない。では何故だ。
 人間が物事を判断する際には、心理的な要素が大きく影響する。明確な物差しがない状態ではなおさら心理的な影響を受けやすい。いわゆる「錯覚」というも のである。これをうまく利用すれば、狭いところを広く、広いところを狭く感じさせることが可能なのだ。ナンジャタウンが敷地面積の割に感じる広さが広いの はこの「錯覚」をありとあらゆる所で用いているからだ。
 この本では、広さに関する「錯覚」を中心に、ナンジャタウンの心理的な効果を判る範囲において、紹介していきたいと思う。

[ナンジャコア・全体編]
●スターロード
 ナンジャタウンのゲートを入ると赤絨毯の引かれた「スターロード」がある。全ての来園者はこのスターロードを抜けて「ナンジャコア」へと進む。だが、こ こでちょっと地図を開いてみよう。普通、テーマパークや遊園地ではゲートを入ったらすぐに園内に入れる。あるいは東京ディズニーランドのように、パーク中 心に向かってメインストリートが作られている。ところが、このスターロードはナンジャタウンの外周に沿った形で作られている。他のパークと同様の方式で作 るとすれば、「ナジャヴルーム」の位置をゴースト13番街側にずらせばよいだけだ。これで、スターロードはゲートとコアを最短距離で結ぶことができる。
 なぜ、わざわざ遠回りをするようなコースをとっているのか。これは、「早く園内に入りたい」と気持ちが高ぶっている来園者に、あえてしばらくの間パーク の内部を見せず、期待感をより高める効果を考えてのことだろう。スターロードの両サイドに並ぶ彫像達も(初来園者にとっては、この彫像が何を示すか入園時 には判らない)、その期待を高める役を担っている。
 退園時にはナンジャタウンという非日常的空間から、現実世界に戻るための緩衝地帯としての役割がある。スターロードに立ち並ぶ彫像は、今度はパーク内で であったキャラクター達を最後にもう一度登場させるエンディングとなっている。映画で言うならば、オープニングとエンディング双方の役割をこのスターロー ドが果たしているのだ。

●建物の構造
 パーク内にはほとんどの街区において、商店街を中心とした各種の建物が存在している。その中でも特に有名なのは福袋七丁目商店街の三条家だろう。狭いな がらも昭和30年代当時の面影を残す家ということで、初めての来園者にも評判が良い。ところで、この三条家は福袋で一番狭い家というイメージがある。三畳 一間しかない家であるから、確かに狭いといえば狭い。だが、よくよく考えてみれば、ナンジャタウン内の建造物はほとんどが三条家より狭い。たとえば三条家 の向かいにある山川家をみてみれば一目瞭然だが、この山川家は二畳一間しかない。
 他の家や商店街、マカロニ広場の工房通りやナンダーバードのビクトリーストリートの店などをみてみると、そのことごとくは入り口しか存在していない。例 外なのは実際に飲食・物販施設として営業している店だけである。本当の町を見てみると、実際には玄関や店先だけしか通りに面していないというのはごくまれ だ。大抵は、玄関の脇には壁があったり、部屋の窓があったり、風呂場があったり、内部で人が生活できるだけのスペースが存在している。もちろん、ナンジャ タウンの家々にもそのようなスペースは描かれているが、玄関の大きさからするとそのスペースはかなり狭い。人が路地を歩いて家を見ているときは、家の象徴 となる玄関だけを意識し、それ以外の部分はあまり意識しない。ナンジャタウンの路地はつまり、人間が普通には意識しない部分を大幅に圧縮し、象徴となる玄 関だけを狭いエリアに多数置いているのだ。これは、訪れる人に、広さの錯覚をもたらす。ナンジャタウンの路地を3件分進んだ人は、その風景から現実世界の 3件分と同じくらいの距離感を覚える。実際には2件分も歩いてていないにもかかわらずだ。
 さらに、今まで述べた道路面から見た正面に関する錯覚に加え、広さを錯覚するもうひとつの仕掛けがある。それは、パーク内それぞれの建物が実質的には 「平面」で、奥行きがある建物が数少ないということだ。例えば、福袋日活映画館の入り口扉が開いて中に入れたとしても、1歩足を踏み入れたその場所は既に 福袋日活映画館ではない(この場合は、銭湯クイズどんぶらこのアトラクションエリアになる)。アトラクションや物販・飲食施設で必要なエリアを平面の家が 囲むような形で構成されている。これらの平面の家は、町を訪れた人々の面積感覚を狂わせる。実際の町にはそのような平面の家は存在しないため、無意識のう ちに平面の家に奥行きを感じ、来園者は頭の中で、その奥行き分の実際に存在しない広さをパーク全体の面積に加えてしまうのだ。

●アトラクションのウェイティングスペース
 ナンジャタウンに限らず、テーマパークのアトラクションには、次の利用者が待つためのウェイティングスペースが設けられていることが多い。ここでは、次 のアトラクション説明を受ける場所(ブリーフィングルーム)に入る前に、あらかじめ造形物やビデオ映像などでアトラクションストーリーの一部を感じ取れる ようになっている。大抵はウェイティングスペースはそのまま混雑時の行列導線となっているため、待ち時間内にも利用者があるていど楽しめる造りになってい ることが多い。TDLなどの広い敷地を確保できるパークでは、このウェイティングスペースにかなりの敷地面積を割り当てている。
 では、ナンジャタウンはどうだろうか。じつは、このウェイティングエリアを設けているアトラクションはそれほど多くない。あるのはブリーフィングルーム 直前に数10人程度分のエリアだけだ。狭いパークゆえに、混雑時のためだけしか利用しないウェイティングスペースを確保できないというのが要因だろう。そ のかわり、アトラクションの外側にもアトラクションやパークのテーマに沿った造形があるため、閑散期には通路となっている部分を混雑時の臨時ウェイティン グスペースに割り当てている。
 ただし、その数10人分しかないウェイティングスペースも来園者の感覚的なパーク面積を広げるためには大きな役割を果たしている。福袋の「蚊取り大作戦」、ナンジャコアの「ナジャヴの大冒険」が特に意識的にその効果を求めた造りになっている。
 それは、アトラクションのブリーフィングエリアや実際のアトラクションスペースに到達する直前のウェイティングスペースが、非常に狭い通路になっている 点だ。しかも、その通路は出口の直前で直角に曲がっているため、列の後ろにいる人には列の先が見えない。このスペースに並んでいると、かなりの窮屈感を覚 えるだろう。そのかわり、このスペースから出た瞬間、人々は開放感を感じる。出た場所が実際にはかなり狭いエリアだったとしても、それ以上に狭い場所から 出てきた人には狭さを感じないどころか広さを感じるのだ。似たような構造はナンジャタウンのパーク全体にみられる。単なる通路の部分を狭く作ることで、来 園者には広さをより意識させるようになっている。

●夜という設定のトリック
 パーク内の時間設定は、ナンジャコアやナンダーバードなど一部街区を除いては夕方から夜にかけての時間帯となっている。これも、心理的な空間を広げる役 割に大きく役立っている。ナンジャタウンはビルイン型のテーマパークであり、かつ、既存の建物を改装して建設している。そのため、他の屋内パークと比べる と天井が非常に低い。このような状態で、通常の屋内パークのような天井を作ると非常に圧迫感を感じてしまう。そこで、ナンジャタウンでは時間を夜に設定、 天井を真っ黒に塗りつぶした。これにより、天井の黒さがそのまま夜の闇に変化し、見る人の距離感を失わせるのに貢献している。

[福袋七丁目商店街]
●時間の流れと空間面積の広がり
 パーク内で最も、心理的トリックが用いられているのが、福袋七丁目商店街である。まず、アトラクションの街行列にもなり得るメインストリート(福袋駅か ら満福軒に向かうルートと、夕焼け通り、そして参道)には、全街区共通のトリックに加えて、時間経過のトリックがある。このメインストリートは、本来の効 果を最大限に得ることを目的に、歩行ルートが一方通行になるように設計された(ただし、予想以上の混雑発生のため、現在は一方通行が解除されている)。こ の正規の歩行ルートを辿っていくと、福袋駅近辺のまだ夕暮れ前の明るいエリアから、三条家近辺の夕暮れを経て、福袋神社の夜へと時間が進んでゆく。
 これと同時に、先に挙げた「夜という設定」によるトリックで、狭い雑踏の商店街から、広い神社へと次第に心理的な空間面積が広がってゆく。また、福袋駅 近辺はガード下という設定である故にわざと天井を低くしているため、先に挙げたウエイティングスペースのトリックと同様の効果が発生し、実際以上の広がり を感じるようになっている。

●長屋通りの距離感
 メインストリートよりも、明らかな心理トリックを見て取れるのが裏道だ。まず、長屋通りと呼ばれる裏道を見てみよう。この通りには2つの大きなトリック がある。1つは長屋の建物の構造だ。1階分の高さしかないスペースに2階建ての長屋を組み込んでいる。2階部分は1階部分に比べて明らかに狭い。1階部分 を大きく作り、2階部分をそれより一回り小さく作るのはテーマパークでの疑似建造物制作時の常套手段で、TDLなどでもよく見かけることができる。長屋通 りではさらに、先に挙げた天井の暗さによる効果が手伝って、この路地の高さを誤認させる作りとなっている。
 もう1つの大きなトリックは、のらねこ探偵社がわから縁日銀座に向かって通路が僅かずつだが上り坂となっている点だ。これもテーマパークでは良く使われ るトリックで、見る人の遠近感を狂わせるものだ。ワンダーエッグ3のカーニバルアーケードや、TDLのワールドバザールでは、奥に行くほど建物の高さを低 くして遠近感を強調させているが、長屋通りでは逆に地面の方を傾けて同様の効果を得られるような作りとしている。

●飲んべえ横町の酔っぱらい現象
 福袋のもう一つの裏道、飲んべえ横町も明らかなトリックがある。そのために、平衡感覚の弱い人がこの通りを歩くと、それだけでふらふらになってしまうこ ともあるほどだ。最もその現象が起こりやすいのは、「鉄火場の風」近辺である。何気なく通り過ぎると気が付かないのだが、このエリアに位置する建物はその ことごとくが「傾いて」建てられている。しかも、統一した傾きではなく、建物毎に少しずつばらばらに傾いているのだ。隣り合った2件の隙間をよくみるとこ のことははっきりとわかる。しかし、それを意識していないと、「建物は全てまっすぐ建っている」という先入観から、「傾いているような気がするのは自分の 方がおかしい」となり、酔っぱらった時に似た感覚を起こさせる。

[マカロニ広場]
●明と暗に分かれた照明演出で愛と試練を際立たせる
 マカロニ広場街区では福袋ほど「広さ」を錯覚させるトリックは少ない(もちろん、アトラクションのウェイティングスペースなどの場合は、先に述べているような仕掛けはある)。しかし、照明による演出を最も効果的に用いているのがマカロニ広場だ。
 マカロニ広場には広場側に3カ所と、アマーレ教会側に1カ所出入口がある。この出入り口部分はマカロニ広場の中では比較的照明が明るい。広場側から市場 通り、工房通りに続く通りも明るくなっている。しかし、その先のワインセラー部は非常に暗い。あるいは怪しげな赤色の照明で統一されている。ステラの回廊 や、シレーネの水門付近は中間的なブルーを基調とした照明となっている。
 これらの照明の変化は、そのゾーンに位置している神の力を表している。通常状態(閉園前のライトダウン時以外)では、明るいエリアでは、広場のアフロ ディーナス・ビアンカヴィータ、市場通りや聖なるツリーのキューピット、工房通りのヴァンジェリーナなど、その付近の神の加護によって、幸福が訪れている 場所であることを示す。そして、暗いワインセラーは死神ディモスの領域、その並びは禁断の愛の神メデュースの支配下にある。このエリアにやってくる人は自 然と闇の力と禁断の愛の力を感じずにはいられない。ステラの回廊とシレーネの水門は、それぞれ闇の領域から光の領域に移動する人々を、清らかなる水の色ブ ルーで浄化している。星座の井戸もその中に蓄えてる聖水が浄化の役を担っているのだろう。
 メデュースの泉から工房通りに至るルートにはこの浄化ゾーンが存在していないが、これはつまり、「禁断の愛」というものが現世と比較的に近い物であることを示しているのかもしれない。

●ライトダウンに隠された意味
 夜9時過ぎに訪れるスターストーンファンタジーと呼ばれるライトダウンについても、深い意味が隠されているような感じがある。表向きは、ライトダウンし たマカロニ広場で恋人達に幸せをもたらす神々が光臨するということになっつている。しかし、先に述べた光と闇の意味を考えると、ライトダウンは恋人達への 試練の意味も含まれているのではないか。闇に包まれた間、これ幸いと妖しげな気持ちを抱く者は、神々の光臨の前に、死神ディモスやメデュースの力に取り込 まれてしまう。しかし、この闇からの力に耐えた恋人達には、その後のライトアップと同時に、幸せをもたらす神々の力が授けられる。ライトアップ直後に、 ヴィアンカヴィータが恋人専用ミュージックに変わることや、アフロディーナスが歌い出すことがその証拠ではないだろうか(まぁ、これは私のたんなる深読み のしすぎなのかもしれないが)。

[もののけ番外地]
●心理的な恐怖感が無いお化け屋敷
 もののけ番外地も、広さに関するトリックはそれほど目立たない。どちらかというと、このエリアは広さよりも、怖さを楽しさに変える心理トリックが多いようだ。
 もののけ番外地は、基本的なエリアコンセプトが「肝試し」であるため、エリア内は暗く、各種の「脅かし」が仕掛けられている。それぞれの仕掛けは確かに 怖い。しかし、エリア全体としてみた場合、お化け屋敷のような怖さは感じられない(もともと、お化け屋敷のアトラクションである「地獄旅館」は別だが)。 普通のお化け屋敷にはとても入れないような人でもこのエリアには入れるという人も多い。もちろん、混雑時には他の来園者の多さで怖さが半減するが、そうで はない閑散期に1人で入ってもそれほど怖くはないはずだ(もちろん本格的な怖がりの人は、これでも怖いと思うかもしれないが)。
 普通のお化け屋敷では、直接的に脅かす仕掛けの他に、恐怖感を間接的に煽る仕掛けがある。その場、その場で脅かされて感じるのは直接的な恐怖感だ。これ はその瞬間に大きな恐怖を感じるが、次の瞬間にはおさまってしまう。間接的な恐怖感の場合は、恐怖感は少しずつじわじわと忍び寄り、そのまま恐怖を感じつ づけさせてしまう。
 間接的な恐怖感を与えるものの一つとしては、「窮屈感」がある。狭い路地を1人で歩いているときの孤独感と、壁が迫ってくるかのような感覚、そして狭い ゆえに先が見えず、次に何が起こるか予測できないことが恐怖感となって現れる。実際にはお化け屋敷には他の利用者もいるし、壁が迫ってくることも(そうい う仕掛けがなければ)ありえない。しかし、利用者はそのような感じ方をし、恐怖を感じる。さらには恐る恐る進んだその先には何もなかった場合、ほっとする と同時に「この先こそは何かがあるのではないか」と感じ、余計に恐怖感を高めてしまう。
 この間接的な恐怖感を与える仕掛けが、もののけ番外地にはない。「肝試しを楽しめる」ように排除しているのだ。もののけ番外地は他の街区に比べて壁や建 物で通路の先を隠すという造りが少ない。それどころか、ある程度先まで見通せるような作り方になっている。そのため、このエリアを訪れた人は、窮屈感によ る恐怖を感じない。

●あくまでお祭り
 「静けさ」による恐怖感というものも間接的な恐怖感の要因だ。しんと静まり返って物音一つない状況下ではかなりの恐怖感が起こる。大抵のお化け屋敷で も、いざ脅かす瞬間までは沈黙を守っている場合が多い。ところが、もののけ番外地の場合は、この静けさはない。例えば、もしあなたが、ナンジャタウンの中 で睡眠を取ろうと考えたとしよう。その場合、誰もかがいちばん眠れそうな場所と考えるのは「もののけ番外地」だろう。しかし、一度でも実際に睡眠を取ろう と試みた経験のある人は、まず「もののけ番外地」を睡眠の場には選ばない。というのも、確かに暗さも雰囲気も眠りには良い環境なのだが、いかんせん「うる さすぎる」のだ。もののけ番外地も設定としてはもののけ復活祭という「お祭り」であるため、あっちで「ギャー」、こっちで「わー」、もののけ達は休む間も 無く騒ぎ立てている。よほどすさまじい睡魔に襲われているか、普段から騒音の中で寝ている人でもなければまず寝れない。静けさのかけらもないのである。
 では、もしもののけ番外地が静かな街だったらどうだろう。所用あって閉園後のすべての仕掛けの電源が落ちたもののけ番外地に入った人いわく「本気で怖かった」とのこと。おどかしの仕掛けが動いていない時のほうが恐ろしいのだ。
 見通しのよい街区構造、うるさいほどの効果音、この二つの環境トリックが来園者に、「楽しい怖さ」を感じさせる重要なファクターとなっている。

[ナンダーバード&ゴースト13番街]
●ゴースト13番街のジグザグ道
 ナンダーバード街区の地下という設定のゴースト13番街区。もともと第一期オープン時から最も狭い街区であったが、もののけ番外地のオープンによって、 「ナイトイーグルの砦」エリアの他は、たった1本の通路だけとなってしまった。しかし、この部分にも、心理的空間感覚を広げる基本である、「見通しの悪 さ」と「暗さ」は存在している。下りエスカレーターを降りて、上りエスカレーターに向かうコースが推奨ルートとなるが、このルートで歩くと、ナイトイーグ ルの砦直前の空間がそれまでの狭い通路によって、より広く感じられる。また、通路の最後にある2つのゴースト達の仕掛けが、通り過ぎた背後で作動するた め、脅かしの効果も高くなる。

●唯一、トリックのほとんどないナンダーバード街区
 ナンダーバード街区は、そのほとんどをイーグルズクラブ、ナンダーセントラルステーションといった、ゲームコーナーで占めているため、街の様相を呈して いるのは、外周部だけとなっている。そのため、ここには心理的なトリックはほとんど使用されていない。恐らく、今後のリニューアルを考慮し、自由度の高い 予備空間を確保するためではないかと推察できる。

[おわりに]
●心理効果が裏目に出てしまったトリックもある

 ここまで、ナンジャタウンの効果的な・心理トリックや演出を述べてきたが、中にはこれらの心理トリックが裏目に出てしまっている場所もある。その一つは 福袋神社の裏門の出口通りである。もともと、福袋は時間の経過を移動によって感じさせる効果を高めるため、福袋駅を入口、神社裏門を出口とする一方通行と なっていた。しかし、出口通りには「先が見えない」ようなつくりとなっているため、神社までたどりついた人々のほとんどは、そこで右折し福袋駅に戻るコー スを選んでしまう。その結果、福袋駅周辺が尋常ではない混雑となってしまった。
 また、一般的に人間の行動は左回りを優先するような癖があるといわれている。しかし福袋の推奨ルートは右回りだ。アトラクションなどのように次の行き先 が指示されている場合は別だが、特に行き先の指示がない場合は、右回りのコースより左回りのコースを選んでしまうという。もしかすると、福袋の推奨ルート を左回りに造っていたら、いまより少しは人々の流れが良くなっていたかもしれない。
 このように、一部には心理効果が裏目に出てしまった部分もあるが、それらを差し引いてもナンジャタウンの、照明・建造物・通路の作り方は心理効果を考慮 したすばらしいパークであると考えている。狭いパークなのに狭さを感じさせず、本来怖いはずのエリアでも楽しさを感じさせ、パークの世界設定をより深く読 みとる楽しみまでも作り出している。まさに究極の狭敷地型パークであるといえるだろう。